理事長挨拶

生涯28の達成をめざして

理事長 山下喜久
一般社団法人 日本口腔衛生学会理事長
山下喜久九州大学大学院歯学研究院

元号が平成から令和に変わる今年5月に森田前理事長に代り日本口腔衛生学会の理事長を拝命しました山下です。これから2年間、本学会理事長として国民の口腔保健の向上を目指して努力したいと思います。

令和元年の本学会総会が第68回ということで、本学会の設立からほぼ70年を迎えています。本学会は昭和35年の日本歯科医学会の設立当初から7つの専門分科会の一つとして歯科医学の発展に大きく貢献してきました。現在では同専門分科会も23に増えていますが、ほとんどの専門分科会の視線は患者と歯科医師だけに向けられており、歯科疾病ありきの考えを基本としています。一方で、本学会の理念は健康を守るという考えに立ち、病人に限らず健康に生活する人も含めたすべての国民をみまもるという点で、他の専門分科会だけでなくその他の多くの歯科学会にはない大きな特徴を持っています。

幸いなことに、歯科の2大疾患である齲蝕(むし歯)と歯周病は少しの努力を惜しまなければ予防が可能です。昭和から平成に変わった1989年に「8020運動」のムーブメントが起こり、歯科界の平成30年間は8020達成を目指した時代とも言えます。事実、直近の歯科疾患実態調査では8020達成者が国民の5割を超えたと報告されており、これまでの調査結果から算出された回帰直線に基づくと、あと20年で8020達成者が100%に達すると予測されています。あくまでも計算上の予測にしか過ぎませんが、国民の口腔保健状況が年々向上していることに間違いはないと思います。その一方で、高齢者の口腔に多くの歯を残すことで、歯周病が増加しているとも言われており、一部の高齢者施設の現場からは無理に歯を残すことに疑問の声が上がっているのも事実です。

このような背景の中、札幌市で開催された第67回本学会総会において、「健康な歯とともに健やかに生きる-生涯28(ニイハチ)を達成できる社会の実現を目指す-」の学会声明を採択し、生涯を通して病的な抜歯のない社会の実現を本学会の大きな目標として掲げました。8020の達成にすら疑問を持たれる方々からは、現実を理解していない机上の空論との批判も免れないかもしれません。しかし、ここで目指すのは、無理に歯を残すのではなく、ライフステージを通して適切に口腔を管理することで28歯が健康な状態で残り、その結果として全身の健康を保ち豊かな人生を全うすることです。

保健医療制度さえ整えば人海戦術でコストは多少必要ですが、現行の歯科医療技術でも生涯28を達成できるエビデンスは既に整っています。そのための費用負担に関する社会合意の形成を促す根拠の提供は本学会の重要な使命の一つです。その一方で、コストベネフィットの観点からは、より簡便で効果的な歯科疾患の予防法を開発することも生涯28達成への早道かもしれません。それぞれアプローチは異なっても期待される着地点が国民の口腔保健の向上であることに違いはなく、令和の元号の幕開けにあたり、本学会会員が一丸となり国民の皆様とともに生涯28の達成を目指した新たな一歩を踏み出すことができればと思います。