コレラ、チフス、ペスト、食中毒、そしてコロナウイルス。原人と呼ばれた時代から今日まで人類は感染症に怯え続けてきた。人類は、感染症によって命を守る盾として衛生学を編み出した。やがて抗生物質、ワクチンと攻めの矛が生みだされ、人類は感染症との戦いに優位に立つようになった。しかし、矛はまだ十分とは言えない。そして人類の健康を損なう病は感染症だけではないのである。衛生学は守りに加えて攻めの叡智も兼ね備えることが求められた。健康を作り増やす智恵である。こうして衛生学は健康増進の実学への道をたどり始めたのである。
口腔衛生学は、口腔発の健康増進のための実学である。口腔衛生学の使命の一丁目一番地は口腔の健康(健口)を守ることである。う蝕と歯周病という2大口腔感染症の病原菌は感染すると一生口の中に住み続ける常在菌と化す。人類はむし歯菌・歯周病菌との共生を優位に保たなければならない。そのための科学研究と研究成果の社会実装、そして健口増進の歩みをたゆまなく続ける社会をつくることが日本口腔衛生学会の進む道である。
2018年に本学会は「健康な歯とともに健やかに生きる-生涯28(ニイハチ)を達成できる社会の実現を目指す-」の学会声明を発出した。健口が生涯守られる社会が本学会の歩む道の先にある。そこは、誰もが安心して健康を享受できる社会である。
2021年5月、山下喜久理事長から日本口腔衛生学会の理事長の任を引き継ぎました。山下前理事長が掲げた生涯28の理念の実現に向け、これから2年間、たゆまず歩み続けます。