一般社団法人 日本障害者歯科学会

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お知らせ

医療安全委員会

第6回「アナフィラキシー ~初期対応~」

 今回は第2回に掲載したアナフィラキシーの定義と診断基準に続き、初期対応について紹介します。歯科医療従事者がアナフィラキシーを疑う場合には、表1に示した初期対応の手順に従い迅速に行うことが大切です。

表1 初期対応手順

  1. 可能ならば、曝露要因を取り除く。症状を誘発していると思われる検査薬や治療薬を静脈内投与している場合は中止する。
  2. 患者の気道・呼吸・循環、精神状態、皮膚、体重を評価する。
  3. 助けを呼ぶ(可能なら蘇生チーム(院内)または救急隊(地域))。
  4. 大腿部中央の前外側にアドレナリン0.01mg/kgを筋肉注射する(最大量:成人0.5mg、小児0.3mg)。
  5. 患者を仰臥位にするが、呼吸困難や嘔吐がある場合は楽な体位にする。下顎を挙上させる。
  6. 必要な場合、フェイスマスクを使用し(状況でエアウェイを併用)高流量の酸素投与を行う。
  7. 留置針またはカテーテルを用いて静脈路を確保する。0.9%(等張)食塩水1~2Lの急速投与を考慮する。
  8. 必要に応じて胸部圧迫法で心肺蘇生を行う。
  9. 頻回かつ定期的に患者の血圧、心拍数・心機能、呼吸状態、酸素濃度を評価する。

※3、4、5を速やかに並行して行う。

【参考文献】
Anaphylaxis対策委員会.アナフィラキシーガイドライン2022.日本アレルギー学会.

2023年3月10日
日本障害者歯科学会医療安全委員会
吉岡真由美

第5回「自動体外式除細動器(AED)使用時の注意点」

 「除細動」とは、心臓の不規則な痙攣状態(心室細動:VF)を取り除くことで、AEDは心臓に電気ショックを与えて除細動を行います。電気ショックはVF発生から早ければ早いほどよく、1分遅れるごとに生存率が約7~10%下がるというのは2000年頃からいわれているとおりです。歯科外来診療環境体制加算の施設基準でもあり設置している歯科医療機関は年々増加しています。
使用については、アナフィラキシーではアドレナリンを「迷ったら打つ」と表現されることがありますがAEDでは「反応・呼吸・脈が無い(あるいはよくわからない)」場合には「迷わず装着する」ということです。あとはAEDが「ショックの要否」を2分置きに判断してくれます。
 勘違いしやすいのはAEDの心電図解析は「ショックの要否」ですのでショック不要と判断しても「心臓が動いているとは限らない」ということです。ショックの必要が無ければただちに胸骨圧迫を再開して、もし体動が見られるようならば反応・呼吸・脈を確認しましょう。

1)Guidelines 2000 for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. The American Heart Association in collaboration with the International Liaison Committee on Resuscitation. Circulation, 2000 ; 102(Suppl): I 60-76.

2023年1月12日
日本障害者歯科学会医療安全委員会
石垣佳希

第4回「粘膜の損傷と転倒転落」

 粘膜の損傷は,歯科治療の特性から口腔内での小器具の使用や,注水下での高速回転切削器具の操作などにより起こるリスクが高くなります。多くはタービンバーや開口器の誤操作による舌あるいは頬粘膜の損傷です。また,開口保持が困難な脳性麻痺患者は,咬傷を伴うことも多く,患者に合ったマウスピースの作製や,歯科治療時の口唇巻き込みの予防として,ロールワッテや開口棒を使用するなどの工夫が必要です。同時に介助者が適切な吸引操作を行うことが重要です。この様な場合,患者に対する作為が存在するかが問題となります。我々の注意義務は危険予見義務と危険回避義務であり,これらについて義務違反があったといえるかどうかで法的責任が判断されます。
 転倒は,一般に75歳から急激に件数が上昇し,大腿骨骨折が増加します。脳性麻痺やてんかんの患者は,歩行が困難な方が多く,普段の歩行も介助が必要なケースが多くなります。歯科に関しては,日常生活での転倒リスクが高くなると,前歯部の外傷のリスクが高くなりますから,マウスガードで防ぐ配慮が必要です。医療行為のみならず,診療所内での転倒やチェアーからの転落による負傷は,医療事故の範疇に入り,過失によって事故が発生した場合は医療過誤になり法的責任が問われます。でき得る限りの防止対策を講じた上で,発生した場合は速やかに対処できるようにフローを決めておくことが重要です。

【参考文献】
歯科医療安全情報報告書 日本歯科医学会連合 歯科医療事故情報分析評価委員会
障害者の歯科治療―臨床編― 一般社団法人日本障害者歯科学会編
事例・判例から学ぶ 歯科の法律 医歯薬出版株式会社

2022年11月15日
日本障害者歯科学会医療安全委員会
水野 誠

第3回「歯科治療中の誤飲・誤嚥」

 歯科治療時には常に異物の誤飲・誤嚥のリスクが存在し、重大な医療事故となる可能性があります。そのため、その対策は医療安全管理上、重要なテーマの一つです。公益財団法人日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業第47回報告書1)では「歯科治療中に異物を誤飲・誤嚥した事例」について分析した結果が報告されています。
 本報告では、2011年1月から2016年9月までに医療事故情報として報告された歯科治療中に発生した事例155件のうち、歯科治療中に異物を誤飲・誤嚥した30件の事例について分析を行っています。主な事例6例が図表で示されている他、誤飲・誤嚥した異物、患者の年齢、実施した検査と異物が見つかった部位、患者への影響、異物を誤飲・誤飲することになった要因、実施していた治療と内容、事例の背景・要因、事例が発生した医療機関の改善策について分析し詳しく記載されています。歯科治療中の異物誤飲・誤嚥は可能な限り予防対策を講ずることや、発生した際には速やかに対応できるようにすることが重要であり、一読することをお勧めします。

1)(https://www.med-safe.jp/pdf/report_47.pdf)

2022年9月14日
日本障害者歯科学会医療安全委員会
小野智史

第2回「アナフィラキシー」

 第2回のテーマは「アナフィラキシー ~定義と診断基準~」です。 アナフィラキシーは「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」であり、アナフィラキシーショックは「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合」と定義されています1)。アナフィラキシーの診断基準は「1 皮膚症状または粘膜症状のいずれかが存在し、急速(数分~数時間以内)に発現する症状で、かつ呼吸器症状、循環器症状の少なくとも1つを伴う」「2 一般的にアレルゲンとなりうるものへの暴露の後、急速に発現する皮膚・粘膜症状、呼吸器症状、循環器症状、持続する消化器症状のうち、2つ以上を伴う」「3 当該患者におけるアレルゲンへの暴露後の急速な血圧低下」の3項目のうちいずれかに該当する場合とされています1)。
 アナフィラキシーはあらゆる薬剤で発症の可能性があり、これまで複数回、安全に使用でき、薬剤の特異抗体が陰性であった薬剤でも発症の可能性があることを歯科医療従事者は認識することが重要です。

文献

1)医療事故調査・支援センター 一般社団法人 日本医療安全調査機構.医療事故の再発防止に向けた提言 第3号.注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析2018.
(https://www.medsafe.or.jp/uploads/uploads/files/teigen-03.pdf)

2022年7月14日
日本障害者歯科学会医療安全委員会
吉岡真由美

第1回「緊急時対応」

 今回から医療安全委員会の企画として医療安全にかかわる情報を隔月で提供することになりました。第1回のテーマは「緊急時対応」です。
 緊急時における代表的な対応は一次救命処置ということになりますが、障害者歯科治療における一次救命処置のアルゴリズムは一般に行われるものと変わりありません。ただし対象が小児であることが多いと思われますので、成人のような心原性の心停止というよりは呼吸原性の心停止の可能性が高いということになります。また小児でも反応・脈・呼吸の確認は成人と同様ですが、脈の触知は難しいことが多いので反応と呼吸が無ければ心肺蘇生(CPR)開始を考慮した方が良いかもしれません。以下AHAガイドライン2020に準じて記載します。
 CPRの手順は基本的に成人と同様ですが、胸骨圧迫の深さは成人では少なくとも5㎝ですが小児では胸の厚さの約1/3になります。また胸骨圧迫・人工呼吸比は成人では救助者の人数に関係無く30:2ですが、小児では救助者が1人の場合は30:2、複数の場合は15:2になります。診療室ではまず複数の救助者で行うことになりますので15:2の割合でCPRを行うことになります。
 CPRを行う際は家族が同席することで、その後のPTSD発症の割合が低下するという報告があります(NEJM 368:1008-18, 2013)。妨害になるようなら敬意をもって遠ざけることを心がけましょう。
 また意識は無いが呼吸が正常の場合は嘔吐による窒息防止などの目的で回復体位を取ります。成人のように自身で回復体位を取れない場合には背中を支えて体位を保持してあげることも考慮してください。

2022年5月17日
日本障害者歯科学会医療安全委員会
石垣佳希